あのひらべった

「ちっとも。でも、期待することだけはいつでもできるものだわ」
 ベルガラスの予感とは裏腹に、霧はいつまでたっても晴れなかった。三十分ほどたったころ、ベルディンがもどってきた。「何者かが西の浜に上陸した」と報告した。「そいつらの姿は見えなかったが、声はまちがいなく聞きとれた。アンガラク人てやつは、声を落とすことがへたくそらしいな――悪いな、ザカーズ、だが、ほんとうのことだ」
「なんなら、今後三、四世代に渡り、ひそひそ声で話しあうようにと布告をだそうか」
「いや、いいってことよ、ザカーズ」ちびの魔術師はにんまりした。「すくなくとも一部のアンガラク人と敵対しているかぎり、そいつらの到着が聞き取れるほうがいいんだ。ケルダーはもうもどってきたか?」
「まだだ」とガリオン。
「なにをやってるんだ? この石のかたまりはくすねるにはでかすぎるぞ」
 そう言ったとたん、シルクがくぼみの端に音もなくあらわれて、石の床に軽々と飛び降りた。「信じられない話があるんだ」
「そうでしょうね」とヴェルヴェット。「でもとりあえず、話してみたら?」
「この峰は人工のものなんだ――すくなくとも、なにかがこれを作ったんだよ。このブロックは峰をテラスみたいに囲んでいるんだ。まっすぐでなめらかなテラスみたいにな。そして、いてっぺんまで階段がつづいている。てっぺんには祭壇とばかでかい王座があるんだ」
「じゃ、そのことだったんだ!」ベルディンが叫んで、パチンと指を鳴らした。「ベルガラス、『トラクの書』を読んだことがあるか?」
「数回、苦心惨憺して読み通した。古代アンガラク語はそれほど得意ではないんだ」
「古代アンガラク語をしゃべれるのか?」ザカーズはすくなからずおどろいてたずねた。「マロリーではあれは禁じられた言語なのだ。トラクはいくつかのことがらを変えて、自分を謎めかしておきたかったのではないだろうか」
「禁止令が実施される前に学んだのだ。ベルディン、どういうことなんだ?」
「冒頭近くのあのくだりをおぼえてるか――思いあがったくだらん話のまんなかへんだ――トラクが世界の創造について、ウルと議論をするために〈コリムの高き場所〉へ登っていったと言っているくだりだよ」
「おぼろげにな」
「とにかく、ウルはそのことは話したがらなかったんだ。するとトラクは自分の父親に背を向けて山をおり、アンガラク人を集めて、またかれらを引き連れてコリムにもどった。トラクは自分がかれらをどうするつもりかを話した。すると、かれらはまさにアンガラクの流儀でうつぶせに倒れ、互いをいけにえとして殺しはじめた。そのくだりの中に〝ハラガチャク〟という言葉があるんだ。〝神殿〟とかそういうような意味なんだ。おれはずっと、トラクが比喩的に言っていたんだろうと思っていたが、そうじゃなかったんだな。この峰がその神殿なんだよ。そこにある祭壇が証拠だ。それにこのテラスは、グロリムが人間を神にいけにえにするのをアンガラク人が眺めていた場所なんだ。おれが正しけりゃ、これはトラクが父親と話をした場所でもある。〈やけど顔〉をどう思おうと、ここは地上でもっとも聖なる場所のひとつなんだ」

グラスをとりだす

 ドクター・マーティンは、自室を出て保守用通路を通り、異星の環境が整えられたET居住区へと向かった。ここを通るの更年期中醫調理は、人目を避けるためではなく、通行の特権を与えられているためだ。通路内には、何本ものパイブや通信ケーブルが、打ちっぱなしの壁に固定されている。ヘルメス石が輝き、湿った石のにおいが漂うなかを、彼女の足音は、前方の溶接された通路に響いていった。
 やがて、上に緑のラソプのついた、気圧調整ドアの前についた。ある異星人の居室へ入る裏口である。ドアのとなりにある感知パネルを押すと、ドアはただちに開いた。
 まばゆい、緑がかった光が溢れだしてきた。何パーセクもの彼方の、とある太陽の光を獏したものである。彼女は片手を目の上にかざし、もういっぼうの手で腰のポーチからサンと、それをはめて室内を覗きこんだ。
 壁にはいくつもの空中庭園や、険しい山のふもとに広がる都市を描いた、蜘蛛の巣のようなタペストリーがかかっていた。都市は険しい山肌にしがみついており、滝を通して見たかのように、きらきらときらめいている。気のせいか、自分の可聴領域のわずかに上の領域で流れる健營營養餐單 、かんだかい音楽が聞こえるようだ。息がつまるような感じはそのためだろうか。それとも、神経が高ぶっているせいなのか。
 ババカブが、クッションを載せた低い台から立ちあがって、彼女を出迎えた.灰色の毛皮をつやつやと光らせながら、太短い脚でちょこちょことこちらへ歩いてくる。この部屋の、化学線による照明と一・五Gの重力のもとでは、外で見られるような.かわいらしさ柑は微塵もない。ワニ脚で立った姿は、力強さを物語っていた。
 異星人の口が小刻みにぱくぱくと動いた。出てきたのは、ぶつぶつと切れる歯切れのよい音だったが、首にかかったヴォーダーから流れ出たのは、なめらかで深く響くことばだった。
「ごくろう。きてくれて、うれしい」
 マーティンはほっとした。〈ライブラリー〉の館長は機嫌がいいようだ。彼女はちょっと会釈をして言った。
「おじゃまします、ビラのババカブ。〈ライブラ健營體重管理リー〉分館から新たに情報が入っていないかと思ってうかがいました」
 ババカブは大きく口をあけて、針のように鋭い歯をむきだした。「なかに入って、すわりたまえ。ちょうど、よかった。新しい、事実、があるのだ。ともかく、入りたまえ。まず、なにか食ぺて、飲むといい」
posted by 念起便是溫暖 at 12:53Comment(0)日記

らドアをたたいても

したにもかかわらず、いい印象を与えるものではなかった。つつみ隠しのない健全な建物は、こんなにも陰湿かつおびやかすように道行く者を見つめるものではないし、わたしは家系上の調査から、一世紀まえの伝説をさまざ自然療法ま知るにいたって、こうした家屋に偏見をいだいていた。しかし嵐の猛威は遠慮もふりすてさせるほどのものだったので、わたしはためらいもせずに、あまりにも暗示的で秘密をはらんでいるように思えてならない閉ざされた扉へと、草の茂る登り道を自転車で進んだ。
 わたしはその家が無人になっているのを何となく当然のように思っていたが、近づくにつれ、そうではないことがはっきりわかった。道には確かに草が密生しているものの、まだ道のおもかげは少なからず残っており、完全な荒廃状態におちいっているのではなかった。そんなわけで、ノックしたドアをためしに開けてみようという気になるどころか、ほとんど説明もできないような戦慄を感じるばかりだった。ドアの踏段の役目をはたしている、苔むし、ごつごつした岩に立って待ちながら、手近の窓やドア上部の明かりとり窓に目をむけてみると、確かに古びてきしんでいるうえ、汚れがこびりついて半透明になってはいるが、割れているガラスはなかった。してみれば、この一軒家はちゃんとした手入れがなされていないにもか健康瘦身かわらず、人が住んでいるにちがいなかった。しかしいく返事はなく、ノックを繰返した後、錆《さ》びついた掛金をためしてみると、施錠されてはいなかった。ドアを開けると、そこは漆喰《しっくい》のこぼれ落ちる壁にかこまれた狭い玄関ホールで、かすかとはいえ独特の不快な臭が戸口から漂ってくる。わたしは自転車をかついでなかに入り、ドアを閉めた。前方には二階へとむかう狭い階段があり、その側面にはおそらく地下室へ通じるものと思われる小さなドアがある一方、わたしの左右には一階の部屋部屋に通じるドアがあった。
 わたしは自転車を壁にもたせかけたあと、左手のドアを開け、天井の低い小部屋に入ったが、二つある窓も汚れているためになかは薄暗く、調度はきわめてわずかで、またこれ以上はないほど粗末なものばかりだった。テーブル、数脚の椅子、大きな暖炉があり、炉棚で古めかしい時計が時を告げていることからも、居間として用いられる部屋のようだった。書物の類《たぐい》がごくわずかにあったが、深まりゆく薄闇のなかでは、書名をたやすく読みとることはできなかった。わたしが興味を惹《ひ》かれたのは、目にふれるものすべてが一様に示す古めかしさだった。わたしもこのあたりの家いえの大半に過去の遺物をおびただしく見いだしていたが、ここではその古めかしさが妙なくらい完璧だった。部屋じゅうを見渡しても、独立戦争以後のものだとはっきりいいきれる品物は一つもない。備品の数がもっと少なくとも、この部屋は古物収集家の楽強精壯陽園といいうるだろう。
 わたしはこの古風で趣
posted by 念起便是溫暖 at 15:51Comment(0)日記